●2012年09月20日(木)
今回もバイクネタ。 しかもセルモーターの修理のお話です〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜@ 対象車両はホンダの250オフ。 症状は、セルモーターが回りが弱い・回らない。 なのでエンジンを始動するのに苦労するので、バッテリーも弱り気味になってしまったとのコト。
まずは、セルスターター回路のおさらいをします。 電気回路としては、「バッテリー」→「スターターリレー」→「セルモーター」という構成になってます。 とってもシンプルなんですよん。 特徴としては、この回路の中にはヒューズなどの安全装置は入っていないのが通常なのです。 これば何故なのかと言いますと、セルモーターは大電流を使います。 なので、バッテリー側から見るとセルの負荷が高いのか、はたまたショートしているのか判んないんですよねぇ。 ですからヒューズを入れても、簡単に溶断するようでは困ります。 むしろ中々溶断しないようにする位ならば、いっその事無くても一緒だったりするんですな。 途中にコネクタ接点とかが介在すればその分損失が増えますし、また発熱ポイントにもなり得ます。 じゃあ安全対策はどうなっているのかと言うと、セルボタンは長く押し続けないようにする、時々休ませるというと言う使い方で注意するコトになってんです。 どんなバイクでもセルの使い方の注意点がちゃんと書いてありますからねぇ。 なので、エンジンが中々掛からないからって延々とセルを回し続けるのは大間違いなのです。
トラブルシューティングでは、まず元気の良いバッテリーを持って来て接続し、セルボタンを押してみます。 ・・・・回りませんねぇ。スーターターリレーはカチカチ言ってんですけど。 次に、強引な方法ではありますがスターターリレー接点をジャンプケーブルで短絡(ショートカット)して、直接セルモーターに電気を繋ぎます。 もしコレで正常に回るようならば、スターターリレー不良ですからねぇ。接点焼けとか。 ・・・・回りませんねぇ。 これで、セルモーター自体が不良であるコトが判明しました。 セルモーターをバイクから取り外して、ついでに弱ったバッテリーも降ろして充電器に掛けておきましょう。
セルモーターの修理の殆どは、ブラシとコミュテーターの磨耗です。 ブラシが減っていれば交換。 コミュテーターってのは回転子(アーマチュアー)とブラシが接触する電極部分のコトです。 モーターとしては、「直流ブラシ式」のごく普通のモノです。 模型用のマブチモーターなんかもこの構造ですねぇ。 ちなみに交流モーターになると色んな種類のモノがありますけれど、直流モーターってのは基本的にブラシ式です。 アーマチュアーにはコイルが複数巻かれてて、固定子は外側ケースになっておりマグネットが配置されてます。 そしてコイル/ブラシの位置と、マグネットとの位相関係によって回転方向が決まります。 勿論ですが、+−を逆にすれば逆回転しますよん。 そして、使い古して不良となってしまったモーターはトルク抜けの状態になります。 つまりモーターの回転が弱くなってしまって、力もスピードも出なくなるんです。 大抵はブラシ・コミュテーターの接触不良によってコイルに流れる電力が低下するのが原因です。 また、回転部分が機械的に不具合があるとモーター回転が重くなり、電気を無駄に食うくせに回転が弱いと言った最悪なパターンとなります。 軸受けの破損とかアーマチュアーの曲がりや干渉などですねぇ。 通常のブラシ交換オーバーホールの手順は、次の通りです。 まず内部の清掃ですねぇ。 軸受けの状態などをチェックしながら、キレイにして行きます。 汚れていると細かい部分が見えませんのでこれは他の部分の整備にも言えます。 (キレイになっていない=チェックが完全にされていない、と判断しても構わないでしょぅな) コミュテーター研磨は、ブラシが完全に密着して当たるような状態に持って行くのです。 なので研磨修正できる限度ってのがありますよん。 その限度を超えている場合は、残念ながら部品交換となります。 またブラシは消耗品なので、使用期間等を考慮してなるべく新品への交換をしましょう。 やはり減る部分は新しくしておけば、その分長く使えますからねぇ。 組み立ては丁寧に、正確にがコツです。 回転軸がブレないように、ネジとかは偏らないように締めていきます。 軸受けなどにはグリスを適せん使用します。 またゴムシールにはシリコングリス等を組み付けグリスとして使い、より確実に組み上げるようにします。 但しコミュテーター部分には接点グリスを含むグリスは一切付けてはいけません。 すぐに油分が焼けて電気的接触が悪くなってしまい、本末転倒です。 組みあがったらバッテリーに繋いで回してみるのですが、とても強力なモーターなので安全に注意が必要です。 モーターの回転力の反作用で暴れたりして怪我の元になりますからねぇ。 出来上がったら車体にセルモーターを取り付けて完成です。
と、簡単に流して書きましたけれど実は今回の修理はちょっと事情が異なりました。 そもそもブラシ関連のメンテナンスは去年行ったバイクですからねぇ。 今回のトラブルの原因は、実はセルモーターにあるのではなく、エンジン側のスーターター機構の方だったのです。 ホンダのXR250系は、MD30になってからセルが標準装備になりました。 完全に新設計と言うワケではないんですけどね。 以前のMD17系エンジンでは基本的にキック始動のみのバッテリーレス電装って構成だったんです。 もっとも、MD17のルーツとも言えるFTR250にはセル付きモデルが用意されてましたけど。 それとAX-1/XLディグリーの水冷DOHCエンジンも腰下はMD17系ベースでして、セルが付いてます。 これらのエンジンのスターター機構ってのは基本的にどれも一緒です。 にも関わらず、MD30系には特有の弱点があるのです。 どうやら排気ガス対策の為の希薄燃焼設定が災いしているのか、ブローバイからの水分発生が非常に多いんですねぇ。 ブローバイガスのホースはエアクリーナーボックスに繋がってて、そこからドレンホースが車体下に延びており先端はプラグで塞がっています。 定期的にこのプラグを取り外して「水抜き」をしなければならないんですよん。 ある程度走行していると、かなりのおミズが溜まっててびっくりすると思います。 で、困ったコトにブローバイの水分は全部ホースで抜けてくれるのではなく、クランクケース内部の上面にも溜まるんです。 ちょっとしたオイルキャッチタンクみたいになっちゃうんですねぇ。 そして、丁度その役割をするのが「スターターギヤボックス」なのです。 具体的な場所は、セルモーターから繋がる第一ギヤの入ってる丸いフタの付いてる部分です。 ここは8mmソケットを使えばボルト3本で簡単にフタが外せますので内部の点検が可能です。 エンジンオイルの油面ははるかに低いので、フタを外すのにオイルを抜く必要はありません。 その中には、オイルと水分が混じって乳化し「マヨネーズ状態」になってびっしり溜まってるコトがありますねぇ。 こうなっていると、ちょっと厄介なのです。 今回のトラブルは、この水分がセルモーターの出力軸に浸透し、その軸受けを腐食させ破損に至りました。 軸受けの作用を失ったセルモーターは回転が非常に重くなり、電力をガンガン消費する割りに力が出なくなってしまったワケです。 不思議なのは、MD30より前のモデルでは同じ構造になっているにも関わらず、そのようなマヨネーズ堆積の症状はほとんど遭遇した事が無いのです。 なので外部からの水分の浸入とは考えにくいですねぇ。 (もちろん高圧洗車で近距離からシール部分に直接攻撃するのはダメです) 排気ガス規制の対策で、完全燃焼によりおミズ発生が多くなったんでしょうな。 そもそもパワー&レスポンス志向のセッティングだと、どうしてもリッチ(濃い)方向になりますのでこういったコトになりにくいんです。 心配なのは、ヤマハTT250Rもメーカーが違うのに、スーターターの構造はほとんど同じなのです。 そしてベースEgとしてセロー250などにもほぼそのまま使い続けられてんですねぇ。 ちなみにWR250系となるとちょっとケースの造りが違うんですけど。 排気ガス規制の為の完全燃焼化により、ブローバイガス中の水分がどの程度発生し、その部分に溜まるのかどうかってのは機会があれば一度チェックしてみたいですねぇ。 MD30だって最初の頃は、こんな弱点があるなんて知られていなかったんですから。
で、軸受けのベアリングが破損していたので交換を考えます。 とりあえずハウジングから抜き取ります。(オイルシールも一緒に付いてます) ニードルローラーベアリングなんですが、中のローラーは粉砕されてますねぇ。 ベアリングの品番刻印がイマイチ判読できませんでしたので、各寸法から該当するモノを探すしかありません。 ニードルローラーベアリングの呼び方は、内径×長さというルールになっています。 例えば内径13φで長さが12mmの場合だと「1312」になるんです。 ベアリング寸法を測ると、外径が19φ、内径が13.5φ、そして長さが12mmですねぇ。 外側に金属ケースが付いている「シェル形」ってヤツです。 ん? ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ〜、13.5φ?? ・・・と思わずキムタクっぽく叫んでしまいました。 と言うのも、通常の工業規格では13.5φってのは存在しないはずなのです。 12φとか13φとか14φとかキリの良い数値なんですよねぇ。 カブやモンキーで言うとホイールのベアリングだと10φまたは12φですし、クランクシャフトは16φです。 つまり、13.5φってのは規格にない「特注品」なんですねぇ。 一般的な市場に流通していないんで、入手は大変難しいのです。 ちなみに、バイクの補修部品としてもココのベアリングは単品供給されていません。 それよりもハウジング自体ですら供給がないんです。 話は前後しますけれど、ハウジングとマグネット部分他のセットになった「フロントブラケットA'ssy」って形態での供給されている他車種はありました。 ちなみに、余分なモノまでセットになってて\13,000-ちょっとします。こりゃダメですねぇ。 どうしてベアリングだけ供給してくれないんでしょうか、意地悪。
ここで色んな作戦を考えます。 まず第一は、ごく真っ当な正攻法。 つまり「セルモーターA'ssyで交換」ですねぇ。 本来はこれで行くしかありませんが、お値段を調べてびっくり。 HONDA 品番[ 31200-KCZ-007 ] モ-タ-ASSY スタ-タ-、定価 \35,805 だそうな。 ・・・仕方がないとは思いますけれど、流石にちょっと保留。 第二プランとして、ベアリング流用です。 実は内径13.5φのベアリングには心当たりがあるんです〜〜〜@ モンキーちゃんのミッション受けのニードルローラーベアリングが確か内径13.5φだったはず。 そしてキャブ仕様最終型になってようやくクランクケースA'ssyではなく、ベアリング単品で供給されているのです。 しかし詳細を調べて見ると問題が。 実は、特注サイズゆえなんですが、外径がちょっと大きい20φなのですねぇ。 なのでセルモーターのハウジング部分をボーリング加工しなければ、このベアリングは入りません。 これはかなり大掛かりな作戦になりますねぇ。 かなり現実的ではありますが、関心のシャフト部分が手付かずになるのが難点です。 完璧な修理の状態から程遠いです。 もしもシャフト部分にダメージがなければ、この作戦で決まりだったのですが。 第三プラン。 アーマチュアー側のシャフト径を0.5mm落として、13.0φ→13.0φとします。 これならば規格品のニードルローラーベアリングが存在します。 しかもベアリングの各寸法は、内径以外同一なのです。 もちろんシャフトが細くなると機械的強度が落ちますが、元々先端のギヤ部分はベースサークル12φですから大丈夫でしょう。 オイルシール側の問題としては、シャフトが細くなればシール出来なくなるけれどリップの当たる部分まで削らなければ大丈夫。 さらにベアリングを選定してシール付きのにするコトも考えられます。 また対象物が丁度ベアリングの当たる部分が腐食により磨耗・荒れが生じていますので、その修復にもなりますねぇ。 問題は、シャフトの材質です。 焼き入れがされており、かなり固いので切削加工が困難です。 もちろん加工屋さんに無理をお願いするしかありません。 とりあえず、この作戦が一番現実的でしょうな。 「もっと良い方法は無いのか」。 かなり考えましたねぇ。そのお陰でコラム更新が止まってしまいましたし。 ネットでイロイロ調べてみても、中々皆さん苦労されている様子です。 MD30系の同様のトラブルで悩まされている方は、結構多いんですねぇ。 もしかして・・・欠陥レベル?なのかも。 解決方法として多かったのは、「中古のセルモーターを探して来て、それベースでOHする」という物でした。 OHに必要な部品は大体4千円位で揃いますので、中古モーターが6千円位ならなんとか採算が合うみたいです。 しかし、ヤフオクを探してみても出品物の中ではなかなか見当たりませんねぇ。
ここでちょっと発想の転換です。 セルモーターはホンダが作ってるのではなく、電機メーカーが製造してんです。 MD30のセルモーターはミツバ電機のSM-13ってシリーズのですねぇ。 このシリーズのモーターは、実はアチコチのバイクに使われているんです。 私の愛車TT250Rもコレですよん。 しかし各部寸法を見ると、TT250Rのセルモーターはちょっとマグネット部分が長いですねぇ。 単気筒用スペシャル仕様ってコトで、強化してあるんでしょうか。 もっとも、問題のハウジング部分(ベアリング含む)は同一ですので、この部分だけ流用するコトは可能です。 もちろんですが、シャフト径は忌まわしき13.5φですよんv 海外のネットでは、OHキットと言う名目でどうやらベアリングを含む部品が売られているようです。 しかし、パッケージの中身がしっかり確認できないのと、クレジットカード決済でしかも外国語(多分英語?)でしか取引できないってコトで敷居が高いですねぇ。 さすがに英語で中身の確認をお願いして、さらに取引するってのは私には難し過ぎます。 そもそも私の英語力ってのは、エロイサイトの入り口を探すレベルまでなので。 それと、内径13.5φのニードルローラーベアリングで調べると、台湾か中国のメーカーサイトに行き着きました。 もっともそこには具体的な入手方法に結び付く事柄は一切記述されてなく、ただ「特殊サイズだよ」ってコトしか書いてないですねぇ。 それが判明するまで、かなりの紆余曲折があったのですけど。 と、ここで急展開。 ミツバSM-13シリーズのセルモーターで、TT250Rよりちょっとマグネットが短い、MD30同寸61mmのヤツを色々探してみたのです。 そしてとうとう見つけてしまいました〜〜〜〜〜〜〜@ しかも作動確認済みで格安品です。 私が一番欲しいのはハウジング部分。(もっと細かく言うとベアリング) もちろんアーマチュアーのシャフトが腐食磨耗してるのでこれもあんまり使いたくないですけど、贅沢は言えませんねぇ。 早速、そのセルモーターを購入して来て、MD30のモノと比較してみました。 いやいやいや、ドンピシャですねぇ。 ハウジングはおろか、アーマチュアーまで同一寸法です。 もちろんですが、セルギヤ部分の歯数やベースサークル径も同一。 もしかしたら大変な流用情報を見つけてしまったのかも知れません。 気になる回転方向ですが、モーターと相対して見て時計回りのが殆どです。 しかし仕様によっては逆回転のもありますから要注意ですねぇ。 今回は無事に、回転方向もokでした。 正しい回転方向は、その車種のスターター機構とクランクシャフトの回転方向から考えると判ります。 そして2つのセルモーターの良い所取りをして、リビルト品を作ります。 とにかく真心込めて丁寧に。 ちなみに、リビルトの方は作業に集中していましたので組み立て中の写真撮影はしていません。 なので、余った方のを仮組み立てしましたから、そっちの方をご覧下さい。 (もちろん清掃などは最低レベルです) モーター単体レベルで完成したので、クルマのバッテリーに接続して回してみました。 ビュンビュンと元気良く回りますねぇ。 回転の反作用でピクピク動くのがエロいです〜〜〜〜@ これは期待できますv
一番問題となるのが、アーマチュアーに付いているワッシャの組み合わせですねぇ。 薄いのと厚いの、それとベーク材のヤツとかもあって組み合わせが判りにくいです。 とりあえず調べておいたんですが、この順番ですよん。 モーターお尻のメタル:[薄][薄](厚)[薄]:コミュテーター アーマチュアーコイル:(厚)[薄](ベーク)[爪付き金具[:ハウジングのオイルシール&軸受け これらワッシャはシムと言うよりかスラスト方向の滑り軸受けの役割みたいですねぇ。 順序に必然性が有るのかどうかは判りませんが、まぁメーカーさんが組んで来た通りにしとくのが良いでしょう。 ちなみに各ワッシャにはごく薄くグリスを塗っておくと良いですな。 爪付き金具の方向は、爪が外側(ハウジング側)を向くようにしなければなりません。 これは、爪がハウジングと噛み合い回り防止になっているからです。 間違えても一応組めてしまうので、特に要注意です。 ケース固定子マグネットの位置もしっかり確認しましょう。 今回のモーターには合わせマークも付いてるし、ブラシホルダとの勘合部分にも合わせ部があります。 もっともこの部分は分解する前にちゃんとマーキングしておくべきですねぇ。 モノによっては合わせマークが付いていなかったり、擦り切れてて判らない場合がありますから。 組み立てを間違えマグネットの位相が変わると、場合によっては逆回転するようになってしまいます。 以前、ジョグでやらかして散々悩みましたねぇ。 セルが逆回転すると、当然スタータークラッチがカラ回りする方になるので、ワケが判んなくなるんです。 スタータークラッチは幾ら調べても正常なので困りますよねぇ。 ちょっと前に、スズキV125でも同様のトラブルがありましたが経験済み事例なのですぐに解決出来ましたv そして、ハウジング・ケースを2本のボルトで締めるんですが、この力加減がちょっと難しいです。 少しずつ均等に締めて行かなければ、アーマチュアーの回転が重く渋くなっちゃいますから要注意。 締めすぎもダメですよん。 またイヤラシイコトに、このボルトの頭は「7mm」だったりします。 こんなサイズなんて滅多に使いませんから困りますよねぇ。 ミツバ電機さんって根性悪過ぎませんか? 規格サイズで作ってくれればすごくOHも楽になるんですけれどねぇ。 担当者は見ていたら出頭するように。
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